血液をさらさらにするお薬(抗血栓薬)と歯科治療
患者様には「不安を減らす実用情報」、医療関係者には「国内ガイドラインを軸にした根拠整理」を掲載しています。

血液をさらさらにするお薬は、脳梗塞・心筋梗塞・血栓症などを防ぐための大切なお薬です。歯科治療前に自己判断で中止しないでください。多くの歯科処置は、お薬を続けながら局所止血を工夫して行います。
1. このページの情報源について
このページは、まず国内の歯科・口腔外科・老年歯科の学会が作成した2025年版ガイドラインを中心にしています。日本で使える薬剤、保険診療、PT-INRの考え方、歯科医院と医科の連携は国によって違うためです。
日本有病者歯科医療学会・日本口腔外科学会・日本老年歯科医学会の2025年版ガイドライン、日本歯科医師会の患者向け情報を重視しています。
SDCEP(スコットランド)やADA(米国歯科医師会)、近年のシステマティックレビューは、国内情報を補強する資料として扱います。
最終判断は、薬の種類、抜歯の難しさ、腎機能、出血しやすさ、かかりつけ医の判断を合わせて行います。
2. お薬の種類を知っておきましょう
「血液をさらさらにする薬」は大きく2種類です。どちらも血の塊を防ぎますが、働く場所が違います。お薬手帳で名前を確認しましょう。

| タイプ | 代表例 | 歯科で確認したいこと |
|---|---|---|
| 抗凝固薬 | ワーファリン®、プラザキサ®、イグザレルト®、エリキュース®、リクシアナ®など | ワルファリンはPT-INR、DOACは服用時刻・腎機能・抜歯の難しさを確認します。 |
| 抗血小板薬 | バイアスピリン®、プラビックス®、エフィエント®、プレタール®など | 心筋梗塞後、冠動脈ステント後などでは中止リスクが大きいことがあります。 |
| 併用療法 | 抗凝固薬+抗血小板薬、抗血小板薬2剤など | 出血リスクと血栓リスクの両方が高くなることがあり、処方医との相談が特に重要です。 |
3. なぜ「止めない」ことが多いのですか?
歯科治療での出血は、多くの場合、圧迫、縫合、止血剤などでコントロールできます。一方で、薬を止めたことによる血栓症は、脳梗塞や心筋梗塞など重大な結果につながることがあります。
そのため現在は、薬を止めることを先に考えるのではなく、薬を続けたまま安全に治療する方法を考えるのが基本です。ただし、難しい抜歯、埋まっている親知らず、多数の抜歯、併用療法では、医科と歯科で相談して計画します。
4. 抜歯・歯科治療の当日はどう進みますか?

お薬手帳、病名、過去の出血経験、最近の検査値を確認します。ワルファリンではPT-INRが重要です。
できるだけ傷を小さくし、必要に応じて縫合や止血剤を使います。初回は範囲を小さくすることもあります。
出血の確認、ガーゼの噛み方、うがいの注意、服薬の続け方・再服用タイミング、連絡先を説明します。
5. よくある質問
多くの通常処置は大きな出血を伴いません。ただし、歯周病で歯ぐきの炎症が強い場合や、外科処置を伴う場合は出血しやすくなります。薬を飲んでいることは必ず事前に伝えてください。
普通抜歯では、お薬を続けたまま行えることが多いです。難抜歯、埋伏歯、多数歯、抗凝固薬と抗血小板薬の併用では、処方医に確認したり、治療を分けたり、専門医療機関と連携したりします。
DOACは薬の種類と飲む回数で対応が異なります。低出血リスクの抜歯では中断しないことが基本です。難抜歯などでは、朝の服用をスキップできるか、服用時刻を変えられるかを処方医と相談します。自己判断で止めないでください。
PT-INRという検査値を確認します。国内2025年版ガイドラインでは、PT-INR 3.0以下であれば休薬せず抜歯を行うことが推奨されています。ただし、3.0以下なら絶対に出血しないという意味ではありません。
6. 治療後に血がにじむとき

- 唾液に少し血が混じる程度は珍しくありません。
- 強いうがいを繰り返すと、血のかさぶたが取れて出血しやすくなります。
- ガーゼ圧迫をしても血が止まらない、血の塊が何度も出る、強いふらつきがある場合は連絡してください。
7. 医科歯科連携が大切です

KUMI DENTAL CLINIC
ご予約・ご相談はお気軽に
抗血栓薬を服用中の方、抜歯や治療後の出血が気になる方もご相談ください。
お薬手帳と全身状態を確認し、お一人おひとりに合わせた治療計画をご提案します。
くみ歯科クリニック | 岐阜県羽島郡笠松町北及1780-1
月・火・木・金 午前午後 / 土 午前 / 水・日祝 休診
院長 森川久美子
国内ガイドラインを主軸に、海外ガイダンスと近年文献を補助情報として整理しています。

I. 情報源の扱い:国内情報と海外情報を分ける
- 日本有病者歯科医療学会・日本口腔外科学会・日本老年歯科医学会 編「抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン 2025年版」。
- 本邦のワルファリン治療域、処方医との関係、保険適用、使用可能な局所止血材料を踏まえた推奨。
- 日本歯科医師会の患者向け情報:通常歯科処置は可能だが、抜歯・歯周外科では局所止血技術が必要、複数薬剤や止血困難例では見合わせる場合がある。
- SDCEP 2022:DOAC、VKA、抗血小板薬の歯科処置別マネジメントを実務的に提示。
- ADA:多くの歯科処置で抗凝固薬・抗血小板薬を変更しないことを支持。
- システマティックレビュー、メタ解析、前向きコホート:出血頻度、DOAC/VKA比較、局所止血の有用性を補助。
II. 基本原則:止血可能な局所出血と不可逆的な血栓塞栓リスク

2025年版国内ガイドラインは、SDCEP 2022を基盤にしつつ本邦向けに改変したGRADE-ADOLOPMENTで作成され、対象は「抜歯」に限定される。旧版より難抜歯・埋伏抜歯まで推奨範囲が拡張された点が重要である。
実務上は、血栓塞栓イベントの重篤性、薬剤継続時の後出血の管理可能性、局所止血能力、患者背景を統合して判断する。推奨の多くはエビデンス確実性が低い/非常に低いため、個別化と対診の閾値を明確にしておく。
III. 薬剤別整理

1. DOAC
- 低出血リスク抜歯:DOACを中断することなく抜歯することを弱く推奨(GRADE 2D)。
- 高出血リスク抜歯:アピキサバン/ダビガトラン(1日2回)は当日朝服用スキップ可否を処方医に相談。リバーロキサバン/エドキサバン(朝1回)は服用時刻変更可否を相談。延期服用が処方医と合意された場合は、止血達成後4時間以降を目安に、処方医・歯科医師の指示で服用する。夕方服用では通常変更不要。
- 調整困難時は、服用後できるだけ時間を空けた処置、初回治療範囲の限定、日中早めの処置、処方医・歯科医師が合意した服用再開または延期服用タイミングを明示する。
2. ワルファリン/VKA
- 低リスク・高リスク抜歯とも、PT-INR 3.0以下なら休薬なし抜歯を強く推奨(GRADE 1C)。
- PT-INRは理想的には処置前24時間以内に確認。安定例では72時間以内の結果で代用可能。結果が現状を反映しない可能性があれば24時間以内に再検査。
- PT-INR 3.0超では処方医へ対診し、治療域へ戻るまで延期を検討。緊急時・高リスク時は二次歯科医療機関へ紹介。
- SDCEPのVKA基準はINR 4.0未満だが、日本では循環器領域の治療域を踏まえ、2025年版では3.0以下が採用されている。
3. 抗血小板薬
- 抗血小板薬単剤(SAPT)または2剤併用(DAPT)では、中断せず抜歯することを強く推奨(GRADE 1C)。
- 非アスピリン抗血小板薬やDAPTでは出血時間延長を想定し、1回の抜歯本数制限、段階的治療、縫合・パックを強く検討する。
- 冠動脈ステント後などでは、DAPT早期中断によるステント血栓症が致命的になり得るため、休薬依頼は慎重に扱う。
4. 抗凝固薬+抗血小板薬併用
データが乏しく患者間リスクのばらつきが大きいため、2025年版ガイドラインでは推奨を行わない。原則として自己判断中止は避け、処方医と血栓リスク、併用期間、予定処置の侵襲度を確認する。併用期間が短期予定であれば延期を検討し、局所止血対応能力に応じて分割治療・紹介を検討する。
IV. 局所止血

抗凝固療法(ワルファリン/VKA、DOAC、LMWH)中患者の抜歯創では、ガーゼ圧迫に加え、縫合、酸化セルロース、止血床(パック)を併用することを弱く推奨(GRADE 2D)。抗血小板療法中もこれに準じる。
国内SRでは、追加止血法の明確な優越性は限定的で、エビデンス確実性は非常に低い。ただし副作用・負担が小さく実装しやすいため、侵襲度と患者背景に応じて併用する意義がある。トラネキサム酸含嗽やフィブリン製剤は海外文献では検討されるが、本邦での適応・使用実態を踏まえ、標準的には圧迫、縫合、酸化セルロース、止血床を中心に考える。
V. リスク評価チェックリスト
| 領域 | 確認項目 | 対応 |
|---|---|---|
| 薬剤 | 薬剤名、用量、服用回数、最終服用、併用薬、NSAIDs予定 | お薬手帳、処方医照会、必要なら鎮痛薬選択を調整 |
| 処置 | 普通抜歯、難抜歯、埋伏歯、骨削除、粘膜弁、多数歯 | 高リスクでは分割、日中早め、処方医相談 |
| 患者背景 | 腎機能、肝機能、血小板数、炎症、血圧、既往出血 | DOACでは腎機能、ワルファリンではPT-INRを特に確認 |
| 施設要因 | 再診可否、緊急連絡、止血材料、二次医療機関連携 | 対応困難なら紹介または処置延期 |
| 説明 | 圧迫方法、うがい制限、処方医・歯科医師が決めた再開/延期服用タイミング、後出血時連絡 | 患者向け文書/口頭説明で明確化し、自己判断での休薬・再開を避ける |
VI. 参考文献
- 日本有病者歯科医療学会・日本口腔外科学会・日本老年歯科医学会 編. 抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン 2025年版. 2025. PDF
- Scottish Dental Clinical Effectiveness Programme (SDCEP). Management of Dental Patients Taking Anticoagulants or Antiplatelet Drugs, 2nd ed. 2022. Guidance
- 日本歯科医師会. テーマパーク8020「抗血栓療法を受けている方」. JDA
- American Dental Association. Oral Anticoagulant and Antiplatelet Medications and Dental Procedures. ADA
- Izzetti R, et al. Direct Oral Anticoagulants and Bleeding Management Following Tooth Extractions-A Prospective Cohort Study. Dentistry Journal. 2024;12(9):279. doi:10.3390/dj12090279. PubMed.
- Dou K, et al. Risk of bleeding with dentoalveolar surgery in patients taking direct oral anticoagulants or vitamin K antagonists: A systematic review and meta-analysis. 2025. doi:10.1016/j.jdsr.2025.08.002. PubMed.
- Darwish G. The Effect of Direct Oral Anticoagulant Therapy (DOACs) on oral surgical procedures: a systematic review. BMC Oral Health. 2023;23:743. doi:10.1186/s12903-023-03427-8. PubMed.
- Johansson K, et al. Impact of direct oral anticoagulants on bleeding tendency and postoperative complications in oral surgery: a systematic review of controlled studies. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol. 2023;135:333-346. Record.
- Boccatonda A, Frisone A, Lorusso F, et al. Perioperative Management of Antithrombotic Therapy in Patients Who Undergo Dental Procedures: A Systematic Review of the Literature and Network Meta-Analysis. Int J Environ Res Public Health. 2023;20(7):5293. PMC.